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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2289号 判決 1976年8月23日

控訴人(附帯被控訴人) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 林信彦

被控訴人(附帯控訴人) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 黒沢子之松

同 佐藤吉将

主文

1  本件控訴並びに附帯控訴をいずれも棄却する。

2  当審における控訴人(附帯被控訴人)の新たな請求に基づき、被控訴人は控訴人に対し金二〇〇万円及びこれに対する本件離婚を認容する判決の確定した日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  当審における控訴人(附帯被控訴人)の新たな請求中その余の請求を棄却する。

4  控訴費用はこれを五分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は控訴につき「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)の請求を棄却する。(三)(被控訴人の離婚の請求が認容される場合の請求として)被控訴人は控訴人に対し金一、五〇〇万円及びこれに対する本件離婚を認容する判決の確定した日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、附帯控訴につき主文同旨の判決を求めた。(右(三)掲記の請求は当審において新たになされた。)

被控訴人代理人は「本件控訴を棄却する。当審における控訴人の新たな請求を棄却する。」旨の判決を求め、附帯控訴として、「(一)控訴人は被控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年一〇月一四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(二)附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張は双方において次のとおり主張を補足したほかは原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決二枚目裏四行目中「旧」とあるのを「旧制」と改め、同五枚目表九行目の初字「前」を削除し、同一三枚目裏三行目中「被告との」とあるのを「被告と」と改める。)であるからここにこれを引用する。

イ  控訴人の補足した主張

(一)  財産分与請求について

1 財産分与請求権は夫婦の一方が婚姻中自己名義で得た財産も直接、間接に他方の配偶者の協力により取得しかつ維持されたものであるから他方の配偶者はこれにつき一種の持分的権利があり、離婚に際してこの持分の取戻しを得させようとするものであって、いわば婚姻継続中の夫婦の財産関係の清算をはからせるものであり、またこれと同時に右制度は他方配偶者の離婚後における扶養及び離婚原因についての有責配偶者に対する慰藉料請求権をも包含する。

2 被控訴人は肩書住所地の鉄筋コンクリート造五階建居宅(○○コーポラス)内の二階の約半分の六〇・一二平方メートルを所有してその一部に居住し、その居住部分のほかはこれを他に賃貸し、賃料収入を得ているところ、被控訴人所有の右建物部分の評価額は三〇〇〇万円を下らない。そうして、被控訴人は○○○○大学から助教授として俸給毎月約三〇万円を得、このほかに同大学から支給される賞与、前記建物部分の賃料を合算すると、その総収入は毎月約四五万円となり、更に被控訴人は将来同大学の教授に栄進し、その収入も大巾に増額することが見込まれる。

他方、控訴人は無資産であって、現在は控訴人の住所地附近のスーパーマーケットに勤務して一か月六万円程度の給料を得、これと被控訴人からの若干の送金とでようやく生活している状態であって、しかも現在の勤務先きもいつまで勤め得るか、その保障はない。

被控訴人は昭和四〇年一月控訴人及び長男二郎、二女咲子を置き去りにして単身で上野のアパートに移り住んだのであるが、その目的は控訴人が原審以来主張して来たように乙山桃子との不倫な関係を継続することにもあった。従って、被控訴人は悪意で控訴人を遺棄したものというべきであり、本件婚姻を破たんの域にまで持ち込んだ責任は被控訴人の側にある。それにもかかわらず、控訴人は生活保護を受けたり、よそに働きに出たりしながら、右の二児を守り続けて来たのである。

右掲記の事情のほか、控訴人が被控訴人と婚姻して以来約二三か年を経過し、控訴人も既に四五才に達したこと等によれば、離婚の場合には被控訴人は控訴人に対し財産分与として少くとも金一五〇〇万円を支払うべき義務がある。

(二)  被控訴人の慰藉料請求について

本件婚姻を破たんに導いた責任は被控訴人にあることについては前述した。従って、離婚に伴う精神的苦痛を慰藉するため慰藉料の支払を受けるべき者は被控訴人でなく、かえって控訴人の側である。

ロ  被控訴人の補足した主張

(一)  慰藉料請求について

控訴人は異常性格のために妻としての通常の家事能力がなく、常に頭痛、めまいがする等と訴えて終日ごろごろと寝て過ごす状態で、子供の養育も満足にできず、常に欲求不満とコンプレックスを抱き懐疑心が強く、遂には自分だけが過重な仕事を強制されていると妄想して自制心を失うばかりでなく、些細な出来事によって錯乱状態に陥り、とうてい通常の家庭生活を営める状況でなかったので、控訴人は昭和四〇年一月以来被控訴人と別居したが、別居後もなお控訴人は被控訴人の生活を妨害し、その体面をけがした。

その間において具体的に生起した生活上の出来事については原判決に被控訴人の主張として記載されているとおりである。

被控訴人は控訴人との新生活に希望をもって結婚したものであるけれども、控訴人の異常性格に起因する各種の出来事によってその夢は破られ、被控訴人があらゆる手段を尽して控訴人をかばい、これを指導し夫婦関係の調整につとめてきたが、その努力はすべてむなしかった。かように、本件婚姻が破たんするに至った責任は控訴人の側にある。

被控訴人は既に満五三才に達し、控訴人のために人生の大半を暗闇で過すことを余儀なくされた。しかも、被控訴人はその年令の点や子供らがあること等によって将来再婚する道も閉ざされている。

従って、被控訴人は控訴人に対し離婚に伴う精神的苦痛を慰藉するため慰藉料として数千万円の金員を請求し得べきすじあいであるが、控訴人の支払能力を考慮してうち金一〇〇万円の支払を求める。

(二)  控訴人の財産分与請求について

1 控訴人の(一)・2掲記の主張は控訴人の年令、被控訴人の現職の点を除きすべて争う。

被控訴人の所有不動産は次の土地、建物部分だけである。

(イ) ○○市○○町×丁目××番地×・同番地××所在鉄筋コンクリート造五階建建物のうち

二階部分 六〇・一二平方メートル(被控訴人の専有部分、以下被控訴人主張の建物部分という)の所有権

(ロ) 同所××番× 宅地一七八・五一平方メートル(右建物の底地)についての被控訴人の部分 五七七七七分の一〇(以下被控訴人主張の土地持分という。)被控訴人が右(イ)の建物部分の所有権、(ロ)の土地の持分を取得するに至った経緯は次のとおりである。すなわち、被控訴人は従前○○市○○町に宅地六六・三四平方メートルと同地上の平家建建物を所有していたが、昭和四五年七月この土地、建物を信販建設株式会社に譲渡し、同会社がこの土地及びその隣接地をあわせた地上に右(イ)掲記の五階建ビルを建築し、この完成した建物のうち右(イ)掲記の二階部分及び(ロ)掲記の敷地の持分を被控訴人が右会社から買い受け、取得した。そうして、その売買代金は、一部を同会社に対して被控訴人が譲渡した従前所有の土地、建物の譲渡代金をもって支払にあて、残余の三〇〇万円は日本生命保険相互会社から借り入れて支払った。この借入金は昭和六一年五月まで毎月返済を継続しなければならない(昭和五一年三月現在の残元本は金二四二万一五九四円)のであって、被控訴人は現在も毎月金三万〇〇五〇円づつ割賦弁済している。

右(イ)及び(ロ)の資産の評価額は控訴人主張の金額よりもはるかに低いのみならず、これらの不動産について日本生命からの右借入に際し、借入金債務の担保のため抵当権が設定されているから右残存債務を控除すれば更にその価値は低額となる。

2 財産分与の制度は夫婦の共同生活中における配偶者の協力、すなわち内助の功が婚姻中に取得された財産の形成、維持に寄与するものであることを基礎とする制度であるから、その分与の有無及び額を定めるには配偶者にかような協力があったかどうかをしん酌しなければならないが、これに加えて離婚原因を作出した配偶者の有責性をも重視しなければならない。

控訴人が被控訴人との婚姻中被控訴人に与えたものは被控訴人の公、私にわたる生活の妨害、精神上物質上の損害以外のなにものもなかったのであって、遂に被控訴人をして控訴人との婚姻の継続を断念するのやむなきに至らせたことは前述のとおりである。

従って、控訴人は被控訴人に対し財産分与請求権を有しない。

三  ≪証拠関係省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫を総合すれば、請求原因(一)、(二)の各事実を認めることができ、右認定を妨げる証拠はない。

二  控訴人と被控訴人が婚姻して以来、控訴人が肩書住所地に被控訴人と別居し、現在に至るまでの右両名間に生じた生活上のでき事、右両名間の軋轢及びその経緯に関する事実関係は、原判決認定のとおりであって、この点に関する原判決理由の説示(原判決二三枚目表七行目から同三四枚目表五行目まで。ただし、次のとおり訂正する。)をここに引用する。

1  原判決二三枚目表九行目中「四号証」の次に「同第二五号証」を加え、同行中「乙第二・三号証」の次に「原審証人Aの証言により真正に成立したものと認める甲第三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認める甲第一〇号証、同第一ないし第一三号証の各一、二、同第一五、一六号証の各一、二、同第一八号証、同第一九号証(ただし、甲第一九号証は原本の存在並びに成立とも)、原審証人Bの証言により真正に成立したものと認める甲第二三号証、当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三三号証、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認める甲第二二号証の一、二、同じく乙第四、五号証」を加え、同裏一行目の「原、被告各本人尋問」以下二行目中「第一・二回。」までを「原審及び当審における控訴人、被控訴人本人尋問の結果(控訴人本人尋問の結果は原審第一、二回及び当審第二回、原審における被控訴人本人尋問の結果は第一、二回、」と改め、同裏二行目中「これら」以下八行目中「一九号証並びに」までを削除する。

2  同二七枚目表五行目中「格別問題は生じなかった。」とあるのを「控訴人が被控訴人から手渡される家計費が少い旨の不満を述べることがあったほかは両名間に生活上特段の確執は生じなかった。」と改める。

3  同二九枚目裏一〇行目中「離婚したい旨の手紙を書き送った。」の次に「被控訴人がこのように控訴人の退院後控訴人を実家に帰しかつ手紙で離婚の意思を表明したのは、控訴人の父大五郎、姉梅子らの控訴人に対する助言、善導によってこれまでの関係が改善されることをわずかながらも期待したからであったが、控訴人の実家側ではかえって被控訴人の控訴人に対する処遇が冷淡であるとして被控訴人を非難する旨の意向を表わし、このことが被控訴人を一層刺激した。」を加える。

4  同三一枚目表八行目の「女性用パンティ」以下九行目末尾までを「女性用パンティと紛らわしいもの」と改める。

5  同三三枚目表一〇行目中「月額一七万円以上の収入を得、」とあるのを「○○○○大学助教授として月額約二五万円の給料(ただし手取り額)を得、」と改め、同裏三行目初字から四行目中「入を得、」までを「○○○○株式会社を退職した後昭和五〇年ころから○○ストアー○○支店に勤め、月額約七万円の給料(ただし、手取り額)を得、」と改める。

6  同三四枚目表三行目から四行目にかけて「原、被告各本人尋問の結果(いずれも第一・二回)」とあるのを「上掲控訴人及び被控訴人の各本人尋問の結果」と改める。

三  以上の事実に≪証拠省略≫を綜合すると、控訴人は精神病質もしくは未熟性の性格で、知的な面では通常の思考力現実適応能力を持っているが、情緒面では未熟であって情緒の統制力が乏しく、些細なことがらでも精神に動揺を来たし、大きな精神的刺戟を受けたとき、精神的緊張が持続するとき等にはこれを自己の内部で処理することができず、情緒不安定となり、衝動的な行動に出たり、極端な場合には急激な錯乱状態(心因反応)を呈することがあること、このような錯乱状態が惹起しても精神科的治療を受ければ間もなく症状は消失し平静に戻ること、控訴人は精神的緊張を要しない環境のもとでは環境に順応して破たんを来たすことがないが、精神病質的な性格自体は矯正が困難であること、控訴人の昭和二九年末の家出、昭和三五年、昭和四七年の入院及びその前後の異常な行動はいずれも近親者(被控訴人の祖母なつ、母たけ、控訴人の父大五郎)の死去という人生の変事に直面しまたこれに姙娠分娩の時期が重なったりして精神的に耐えて行くことができなかったために生じた行動であると推測され、昭和三九年の入院及びその前後の異常な行動は、控訴人が乙山桃子と被控訴人との間に疑いを抱いたことにより生じたものと推測されること、以上のように認められる。

四  右によれば、控訴人と被控訴人との婚姻は破たんの状態に陥って長年月を経過したのであって、控訴人が現在でも被控訴人との婚姻の継続を希望し、かつ右両名間にもうけた前記二名の子供らも控訴人に対する思慕の念を失っていないという事情を考慮に入れても、将来控訴人及被控訴人らが円満な夫婦共同生活を持つまでに右破局の状態が解消される見込みはないと認めざるを得ない。

控訴人は被控訴人との婚姻が右のように破局の状態を迎えたのは、主として被控訴人が乙山桃子と不倫の関係を持ち、その関係を継続するために控訴人及び前記二名の子供を遺棄したことによると主張するが、≪証拠省略≫中被控訴人と乙山との間に不倫な関係があったことを窺わせる趣旨の部分は、≪証拠省略≫に照らしてこれを採用しえず、さきに引用した原判決理由二・(八)の認定事実中控訴人が被控訴人と別居後被控訴人の生活状況を捜索すべく被控訴人のアパートに赴いた際に見た被控訴人の居室内の状況及びその窓ぎわに干してあった下着類に関する事実(原判決三一枚目表六行目から一〇行目までに掲記の事、実ただし前記二・4のとおり訂正したもの)は、≪証拠省略≫に照らして被控訴人と乙山との間に不倫な関係があったことを認める証拠とするに足りない。その他本件全証拠を検討しても被控訴人に控訴人の主張する不貞行為のあったことを認めることができない。また、被控訴人は、控訴人のたびかさなる入院及びその前後の錯乱状態等により控訴人との婚姻継続を断念した結果ひとりでアパートに転居したのであって、この段階においてすでに控訴人との婚姻関係はほとんど破たんに瀕していたと見られることはさきに引用した原判決認定事実に徴して明らかであり、被控訴人がこのように別居を決意するについては、それまでの経緯から考えてやむをえぬものがあったと認められるから、被控訴人が控訴人らを悪意で遺棄した結果控訴人との婚姻が破たんしたという控訴人の主張も採用するに足りない。

五  以上のしだいであるから、控訴人との離婚を求める被控訴人の請求は理由がある。

よって、右両名間の長男二郎、二女咲子の親権者の指定につき考えるに≪証拠省略≫によれば、右両名の子は昭和四七年五月ころ以来被控訴人のもとに引き取られて養育育され、現在長男は○○大学△△学部に在学し、二女は高校生であって、いずれも精神的にも物質的にも安定して生活並びに勉学をしていることが認められ、これに本件離婚原因に関する事情、控訴人の生活状況等をあわせ考えれば、二郎及び咲子の親権者は、被控訴人と定めるのが相当である。

六  被控訴人の慰藉料請求について

被控訴人は昭和三三年父十郎方と隣接して住家を建築して同人方と別個に生活するようにはかったり、控訴人が乙山との仲を疑って異常な行動に出るため、控訴人とともに控訴人の実家に滞在して控訴人の心の鎮静をはかったりするなど時に応じての打開策を講じてはいたけれども、昭和三五年の控訴人の入院のことがあって後は控訴人に対する愛情が冷却したためとはいえ控訴人に対する日常のこまやかな配慮に欠けるところがあったと考えられ、被控訴人は染色工芸作家として繊細な神経を要する仕事に従事し、昭和三四年日展で特賞を受けた後は世間から注目され、作家活動の領域も拡大し、しだいに繁忙となってそのため家庭をかえりみる余裕を欠くに至ったことも控訴人との仲が疎遠となる一因となったと考えられる。とは云っても被控訴人が控訴人に対する夫婦としての愛情をしだいに失ったことは被控訴人の努力によっても避けることのできない結果と云うべきであろうが、控訴人に前記のような異常な行動があるのは、その素地となる精神病質もしくは未熟性の性格によるもので、倫理上もしくは道義上の批難の対象となしえないものである。以上諸般の事情を考慮すれば控訴人に対し離婚に伴う慰藉料の支払を求める被控訴人の請求は理由のないものとすべきである。

七  次に控訴人の財産分与請求につき判断する。

(一)  ≪証拠省略≫を総合すれば、被控訴人は被控訴人主張の建物部分及び土地持分を所有していること、被控訴人がこれらの不動産を取得した経緯は、被控訴人が父十郎と共同して昭和三二年五月○○市○○町×××番地に宅地を購入して、その地上に隣あわせに各一棟の建物を建築し、被控訴人と十郎とが各一棟づつを所有していたが昭和四五年右宅地の約半分が道路拡張工事のため収用され、右居宅が取りこわされることとなったので、被控訴人及び十郎は残地を共同住宅建設用地として日本信販建設株式会社に譲渡し、これを代償とするほかに金三〇〇万円を支払って同会社が地上に建設した鉄筋コンクリート造五階建共同住宅(○○コーポラス)の二階の一区画の所有権と敷地の共有持分を取得したことによるものであること、右共同住宅のうち被控訴人主張の建物部分及び敷地共有持分とほぼ同面積、同程度の建物部分及び敷地共有持分が昭和四六年に約六三〇万円で売買されたこと、被控訴人主張の建物部分及び土地持分には債権者日本生命保険相互会社に対する金三〇〇万円の借入金債務の共同担保として抵当権の設定及びその登記がなされており、右借入金は被控訴人が右建物部分及び土地部分を取得する際に買受代金の一部の支払のために生じたものであるところ、この借入元金は約二五〇万円残存すること、被控訴人は右建物部分のうち約一〇坪の面積の部分を他に賃貸して毎月三万円の賃料収入を得ていること、被控訴人は以上のほかに資産をもたないこと、以上の事実が認められ、この認定を妨げるに足りる証拠はない。被控訴人が○○○○大学助教授として月額約二五万円の給料(ただし、手取り額)を得ていることはさきに認定したとおりである。

以上の一切の事情を考慮すれば、本件離婚に伴う財産分与として被控訴人は控訴人に対し金二〇〇万円を支払うべき義務があり、それを超える金額の支払もしくは財産の分与をすべき義務はないと認めるのが相当である。

従って、控訴人の財産分与請求中被控訴人に対し金二〇〇万円及びこれに対する本件離婚を認容する判決の確定した日から支払ずみに至るまで年五分の遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の請求は理由がない。

八  以上説示のとおり被控訴人が控訴人との離婚を求める請求及び親権者指定の申立はいずれも理由があり、これを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、また附帯控訴に基づく被控訴人の請求も理由がないが、当審における控訴人の新たな請求は右の限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却することとし、当審における控訴人の新たな請求を右限度で認容し、その余を棄却することとし、控訴費用並びに附帯控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 間中彦次 糟谷忠男)

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